携帯版はこちら    QLOOKアクセス解析

  

SPECIAL 17

  天使の策略~夢のカケラは殺しの香り~

更新日:2008年6月7日


今回の感想は、Mル第三巻に収録されている「天使の策略 Another Angels」と比較を盛り込みつつ行いたいと思います。

【ストーリー】
「戦争とテロの憎しみの連鎖」をテーマに、女性だけの反米テロ組織とのオリジナル・メタル争奪戦を描いた物語。
宮氏は『GREEN vs RED』でも「戦争と核」を作品に取り上げています。
戦争ネタを取り上げるのは時代の趨勢なのか、それとも宮崎駿氏、押井守氏などの偉大なアニメ監督へのオマージュなのか、どうなんでしょうか。
『ルパン』という作品に、「戦争」という悲劇的かつ現実的なモチーフを持ち込むことはどれだけの意義があるのか、改めて考えさせられました。
敵グループに関しては、テレスペ版よりもMル版の方が、「覇権国アメリカがもたらした戦争の犠牲者」として上手く描いていました。
全体的なストーリー展開に関しては、話が拡散することもなく、よくまとまっていたと思います。
「ロズウェル事件」といった現代史のSFミステリーを盛り込んでいる点は、「長編ルパンのお約束」ですね。

【作画】
セカンドリスペクトな作画。
前作『盗まれたルパン』よりも作画が良くなっていて良かったです。
これは作画ではなく、演出の問題なのでしょうが、滑稽な表現が目立ったのが残念です。
例えば、妖刀・紅桜のロゴシーン、「ブラッディ・エンジェルス」の戦闘員がなぜかハイレグ戦士、レディー・ジョーがなぜかドレスにお色直し…などなど。
敵キャラ5人の最後が止め絵演出だったのは、出崎ルパンへのオマージュなのでしょうか。

【アクション】
アクションシーンはいいと思います。みんな良く動きます。
勢いのあるアクションのおかげで、テンポのよさが感じられました。
最終決戦で、メイン5人(ル次五不銭)がポーズを決めて一人一人敵を倒すシーンは、ジャンプアニメのようでしたが、これはこれで楽しめました。

【世界観】
オーソドックスなルパンワールド。
「戦争とテロの連鎖」というテーマの重さは、あまり感じられませんでした。
それよりも派手なアクションシーンと、ルパン一味の活躍の方が印象に残っています。
「デンジャラス・ゾーン」の現代版アレンジが聞けたのが嬉しかったです。

【OP&ED】
OP…高く評価したいOPです。
THEME FROM LUPIN Ⅲ80(2005バージョン)をBGMに、ダイナミックなアクションが気持ちいいです。
銃弾が絶対に当たらないルパン達と、有り得ないくらいの派手な動きは、『ルパン』だったらこれも「有り」かなと思います。
メイン5人が登場する点も嬉しい。
どうしても気になってしまったのが、UFOに乗った次元とゴエが同じポーズだった点です。
ゴエは腕組みをしますが、次元だと、腕は頭の後ろで組んで、足も組むポーズが「次元らしい」のではないかな、と思いました。
細かいですが、ル次五が3人が一緒に行動するときは、それぞれのキャラにあったしぐさやポーズをとってくれると嬉しいです。

ED…ル次五不がのんびりしているところに銭形警部が乱入する、というお約束オチ。でも、そんなお約束は嫌いではありません。
ラストでのオリジナル・メタルの使い方も、ルパンらしく気負いのない使い方でよかったと思います。

【ゲスト】
前述のとおり、ゲストキャラに関してはMルの方が魅力的に描いていると思いました。
正体がばれたとき、いきなり狂人モードになるのが理解できません。この演出は興ざめでしかありませんでした。

エミリー…テレスペではラスボス。Mルではラスボスの妹。
ラスボスといっても、器の小ささしか感じられない矮小な人物でした。
Mルでの「おまえという若葉が芽吹いたんだ」という存在の方が、ソフィーたちの悲劇性を表現できていたと思います。

ソフィー…テレスペでは悲劇のヒロイン。Mルでは悲劇のラスボス。
テロへの動機は、テレスペの「恋人の復讐」よりも、Mルの「祖国と家族の復讐」の方が感情移入できました。
ルパンと最初にカジノで出会ったとき、テレスペでは、ストラップレスのロングドレスでしたが、Mルではスーツ(バストはチラ見え)。
「保険の調査員」という触れ込みで登場するのであれば、スーツ姿の方がふさわしいと思いました。
テレスペ版では、ソフィーに限らず、ゲスト5人は露出度が高かったり、女性性を極端に意識させる服装をしています。
このあたりは、商業的な思惑なのか、スタッフの趣味なのかよくわかりません。
場違いなドレス姿やハイレグ姿は、「お色気」よりも「滑稽さ」を感じさせてしまっていたと思います。

リンダ…次元を狙うときの狂乱振りが痛々しい…。バーでは、大野雄二さん(おそらく)が演奏していたのが嬉しかったです。

カオル…妖刀・紅桜といえば、『銀魂』を思い出してしまいます。しかも、刀を持つものの魂を喰らい、人斬りをせずにはいられなくなるという設定も同じ。
テレスペでは、斬鉄剣によって折られた紅桜に突き刺されて死ぬ、という最後でした。
しかし、Mルのように、「剣を抜く暇もあたえずに勝負を決める」という演出の方が、五ェ門の剣士としての凄味を上手く表現していたと思います。

ジョー…男装の麗人だったのに、なぜか途中でドレススタイル&日傘。わざわざ動きにくい衣装に変化する理由が分かりません。

東甚五郎…我王@火の鳥にしか見えません。

ところで、最後に登場した、銭形警部と一緒に潜水艦でオリジナル・ メタルを回収しようとした警官は、誰がモデルなんでしょう?

【ルパン】
本作の致命的な欠陥の一つは、「ルパン」の魅力が描けていない点だと思います。
スタッフが「ルパンをかっこよく」描こうとしているのは分かるのですが、その方向性がずれているというか…。
「かっこよい」のではなく、「粗野で横柄」になってしまっていると思いました。
毒入りスポンジを熱帯魚の水槽に入れて殺してしまうルパンは、不快でしかありません。
最初から殺す気がなくとも、そんな危険なものを水槽に入れる迂闊さは有り得ません。
しかも、バーテンに「熱帯魚代だ」と札束を投げつける横柄ぶり。
スタッフは、こんな振る舞いが「かっこいい大人の男」だと思っているのでしょうか。まるで反抗期の少年のような価値観だと思います。
2nd「ゴールドバタフライの復讐」でみせたような、蝶を大量虐殺されるのが許せず、敵地で自ら正体を表すような、無益な殺生を嫌うルパンはどこへ行ってしまったのでしょうか。
管理人としては、敵である女を殺すことの方が、まだ受け入れられました。
2ndでは「可愛い女には毒がある」「ルパンを呼ぶ悪魔の鐘の音」などで、ルパンの命を狙う女に対しては、ルパン自身の手で殺していますから。
また、OPで「ほーら、次元、とってこーい」と言ったシーンも、不快でした。
ルパンは、次元と五右ェ門を「部下」ではなく「仲間」として一緒に行動しているのに、このような上からの物言いをするとは思えません。

【次元】
相変わらずの名バイ・プレーヤー。
冒頭、車の灰皿のシケモクを吸うシーンは『カリオストロ』を思い出させます。
リンダを助けるシーンや、ヘリでのアクションシーンなど見せ場も多かったです。
銃弾を落としてしまったのに、なぜ最終決戦では弾を補充していたのでしょう?
まさか拾いに行ったのではないでしょうね…。それはそれでシュールですが。

【五右ェ門】
扱いが良かったのが、何よりも嬉しいです。女にも惚れません、騙されません。
OPでも大活躍。
ゴエと斬鉄剣はその万能ぶりからか、どうしても扱いづらい存在とされがちですが、本作のOPくらいの大暴れっぷりをもっと見たいものです。
最後にオリジナル・メタルを持っていたのが五右ェ門だった、という展開は彼のルパンファミリーでの立ち居地=切り札、とも被っていて良かったです。

【不二子】
メインキャラの中ではあまり出番はありませんが、ひどい扱いではなかったのが救いです。
ちゃっかりルパンを使ってオリジナル・メタルをせしめて、それを一人で売りに行こうとする不二子イズム。
最初のレディー・ジョーとの格闘シーンはなかなかの見せ場でした。

【銭形】
ストーリー全体を通して、存在感がありました。
冒頭、空軍基地でたくさんの機動隊員に囲まれている図は、『カリオストロ』を彷彿とさせます。
特殊部隊の部下が「ブラッディ・エンジェルス」に入れ替わっていたことに気づかないのは、ちょっと間抜けなのではないでしょうか。
また、エミリーの正体も最後まで見破れず…。
しかし、エミリーを最後まで信じて、庇おうとした銭形警部は、不器用ながらもかっこよかったです。
宮氏は、銭形警部を上手くストーリーの要として使ういう印象があります。
本作では若干ドジカタ気味ではありましたが、部下に慕われ、部下を大事にし、ルパンとも分かりあうという、銭形警部の「情」の部分を上手く表していたと思います。

【ル次五の仲間度】
最初から、3人で行動しているところが嬉しいです。
ゴエにオリジナル・メタルを斬らせるシーンで、ルパンと次元が顔を見合わせてニヤッとしているのが、気難しい末っ子をうまく乗せた兄貴2人という感じで楽しかったです。

【総合】
勢いのあるアクションシーンが多く、テンポよく楽しめます。
ルパン以外のメイン4人(次元・五右ェ門・不二子・銭形)のキャラクターの魅力が、上手く描かれていた点も嬉しいです。
他方で、「ルパンのかっこよさ」が見当違いに描かれていたことと、敵キャラの描写がステレオタイプの「女悪役」すぎたことが作品の質を大きく下げています。
また、全体的に古臭い演出手法が目立ち、そこでテンポのよさが途切れてしまうのが気になりました。

【宮ルパン総括】
『GEEN vs RED』とあわせて宮ルパンを総括すると、宮氏は小難しいアクチュアルなテーマを扱うことには適していないと思います。
『天使の策略』において、「戦争とテロの憎しみの連鎖」というテーマは、ほとんど意味をなしていませんでした。
(何度も述べているように、Mルの方が上手くテーマを生かしていました。)
『GREEN vs RED』が幻に終わった押井ルパンの再構成である点や、自衛隊の民営化を描いている点(※1)を踏まえると、宮氏は押井・神山路線の重厚なテーマを用いた作品を作
りたいようです。
しかし、そのような作品を作るには、宮氏には現代思想や社会情勢への知識や洞察力、自分自身の思想性を培うことが出来ていないと思います

それよりも、宮氏はキャラクターの魅力を引き出しつつ、派手なアクションシーンを取り入れた「正統派娯楽作品」を作ることを目指したほうがよいのではないか、と思いま
した。
『天使』が「正統派娯楽作品」としての完成度が高いとは思いません。
しかし、宮氏が手がけた『ルパン』2作品は、動きが良かった点も評価したいと思います。
これは、宮氏がアニメーター出身で、自分で絵が描ける監督だからこそできることなのかもしれません。
また、『天使』『GREEN』ともに、ルパン以外のメイン5人の扱いは悪くはありませんでした。
他方で、オリジナルキャラ(「ブラッディ・エンジェルス」のメンバーや、ヤスオとユキコ)は、魅力的に描けていません。
宮氏には向かない方向で無理に模索するよりも、宮氏が得意とする作風に徹することを追求されたほうがよいのではないでしょうか。

INDEX     PAGE TOP

※1「民営化された自衛隊の話」は、神山健治氏がいつか作品にしたいと『ユリイカ』の東浩紀氏との対談で語っていた構想です。
(ユリイカ『攻殻機動隊特』2005年10月号所収「アニメは 「この世界」 へと繋がっている 公安9課が解散する日」東浩紀+神山健治)
ひょっとして、宮氏は、神山氏のこの発言からヒントを得たのでしょうか?
管理人としてはどうしても、宮氏が「戦争」を作品内に盛り込む必然性が感じられないのです。
『ルパン』作品の大先輩監督である宮崎駿氏へのリスペクトか、それとも押井氏・神山氏へのオマージュなのか…。
「戦争」をネタにすれば、「難解でアクチュアルな問題に取り組んだ傑作と評価される」と考えているのでしょうか。


Back to Top Back to Index 拍手する

inserted by FC2 system