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MOVIE 4

  風魔一族の陰謀

更新日:2008年8月11日


【キャスト】
ルパン三世:古川登志夫
次元大介:銀河万丈
石川五ェ門:塩沢兼人
峰不二子:小山茉美
銭形警部:加藤精三

【声優陣交代劇:「幻の次世代ルパン」なのか、それとも「ニセモノルパン」なのか】
本作では、メイン5人の声優陣が変更されました。
声優交代にあたっての経緯や、「風魔」声優陣が一作限りの登板になってしまった理由などの業界事情には、管理人はあまり興味はありません。
『ルパン三世』作品としてファンを楽しませてくれるのか、ルパン達は魅力的なキャラクターに描かれているのか、といった点に注目してレビューしたいと思います。

声優陣総交代…管 理人はあまり違和感なく視聴することが出来ました。
声優陣が皆さん上手い方ばかりなので、「これはこれでアリ」だと思わせてくれます。
これはもはや「古川ルパン」であり、「山田ルパン」とは別物として成立しています。
2008年現在、『ルパン』作品において、声優陣交代は最大の課題の一つとなっています。
本作は、この課題に対する一つの回答を与えてくれる貴重な作品なのではではないでしょうか。
(主人公・ルパン役の山田康生氏が他界されたことを受け、「山田ルパン」のモノマネ師として有名だった栗田貫一氏が抜擢された件に関しては、劇場版第4作「くたばれ!ノストラダムス」感 想で述べた
いと思います。
本稿では、管理人は、栗田氏が演じるルパンを肯定的に捉えているとだけ述べるに留めます。)

「風魔一族」の「古川ルパン」を視聴して思ったことは、声優を交代する以上、「山田ルパン」路線を引きずるのではなく、「山田ルパン」と は異なる独自のルパン像を創り上げていくことが必要だということでした。
そもそも、『ルパン』作品のメイン5人のキャラクター像は、原作、各TVシリーズによってそれぞれ異なっています。
メインキャラ5人は、原作からアニメ化する際に、さらにはファーストからセカンドに移行する際に、キャラ改変が行われています

五右ェ門と不二子はその最たるものでしょう。この二人に関しては、声優陣もセカンドでは変更されています。
『ルパン三世』の歴史の中で、メディア展開やシリーズ変更の際に行われたような、従来のイメージを刷新するキャラ改変が、未来の声優陣交代の際には必要になるのではないでしょうか。
各シリーズで異なる「ルパン」像があるものの、軸足となる「ルパンらしさ」があるように、その軸足部分をずらさないようにして、新しい「ルパン」像を創り上げていって欲しいと思います。
しかし、その新しい「ルパン」が、「セカンドルパン」に代表される「山田ルパン」のように多くのファンに受け入れられていくかはわかりません。
同じ「山田ルパン」であっても、最も多くの視聴者に愛されたのは「セカンドルパン」です。
原作からアニメ、そしてファーストからセカンドへのキャラ改変は成功しました。
しかし、「セカンドルパン」のインパクトは大きく、パースリでのキャラ改変は困難な試みであったことが、キャラデザの頻繁な変更、OPの路線変更からもうかがえます。
(私見としては、頻繁なキャラデザの変更こそが「パースリ」の魅力の一つだと思いますが…)

その点において、本作の「古川ルパン」は、「山田ルパン」と は異なる独自のルパン像を創り上げることに成功していると思います。
「古川ルパン」は、「山田ルパン」よりも若々しく、才気溢れるやんちゃ坊主というイメージ。
他方で、山田ルパンの持つ余裕や大物感は薄れているような気もします。
次元やゴエ、不二子、銭形を包み込んでしまうような、4人が可愛くて仕方ないから、ついいじっちゃうみたいな…。
当然、メイン5人のキャラが変わってしまうと、その関係性も変わります。
本作では、次元・ゴエ・不二子が落ち着いたイメージに変わったので、ルパンと一味とのパワーバランスが「山田ルパン」時代よりも「近く」なったような印象を受けます。
「山田ルパン」時代は、ルパンという絶対的な中心人物を軸にバランスが成立していたという印象でした。
次元もゴエも不二子も、ルパンには決して敵わないし、全て見透かされている。
そんなルパンに唯一対抗しうるのが銭形警部・・・そんなふうに管理人は考えています。

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【ストーリー】

代々からくり細工で名の知られる墨縄家の隠し財産をめぐる物語。
前半は、人質としてさらわれたゲスト・ヒロイン紫の奪還を主題に描き、後半は、ルパン一味+墨縄家vs風魔一族との財宝をめぐる攻防戦が見どころとなっています。
ストーリー展開そのものは非常にシンプルな筋立てになっており、随所に盛り込まれるアクション・シーンが引き立つ構成になっています。
この「シンプルな脚本とそれを際立たせる良質なアクション・シーン」は、「カリオストロの城」の構成とも類似しています。
本作は、作品構成だけでなく、世界観、メイン5人のキャラ解釈や、ゲストヒロインの立ち居地なども「カリオストロ」をオマージュしている部分が多々見受けられます。
これは、大塚康生氏監修作品であり、テレコム制作というスタッフ陣によるものなのかもしれません。
一番話題を呼んでいるエピソードの一つは、五右ェ門が女性(しかも堅気)と結婚しようとしていることでしょう。
ルパン一味で一番女性に免疫がなさそうな五右ェ門が結婚するという点が、ファンをニヤリとさせます。
とは言え、メインキャラ(今回は五右ェ門)の大切な女性(紫)と彼女の実家の財産を守るために奮闘するルパン一味、という筋立ても「カリオストロ」風。
最後に、銭形に墨縄老が「何も盗んでいないじゃないか」というセリフは、クラリスのセリフにオーバーラップします。

長編作品において「ルパン一味は泥棒をしない。少 女を助けるおじ様」として描かれることが多いことは、よく知られています。
これは、「カリオストロ」の大成功とイメージ浸透によるものであることが指摘されています。
押井守氏が「押井ルパン」についてのインタビュー記事で、以下のように述べています。

「「カリオストロ」に関する思い入れが、ファンの人たちだけじゃなくて、製作者側にも強烈にありましたよ。何度も見てから本読みに臨んだとかね。ハナから勝ち目は無かったんです。」
(「押井守インタビュー」『キネマ旬報増刊 THEルパン三世FILES~増補改訂版』所収/1998年/キネマ旬報社)

これが1984~85年の話。2 008年もいまだその風潮が残っている様子は、毎年発表されるテレスペから窺い知ることができます。
本作は声優陣の総交代、大野音楽の不採用と新しい試みを行う土壌に恵まれているのにも関わらず、脚本は「カリオストロ」の呪縛からは自由になっていない点が残
念です。

【作画】
ファーストシリーズをオマージュしたキャラデザ。ルパンも緑ジャケを着用。
どちらかといえば、TVシリーズよりも「カリオストロ」に近い、ちょっと可愛らしい作画になっています。
ルパンが幻術ガスを使用した時に、敵の幻覚でルパンの顔が過去作のキャラデザに変化する演出は気が利いているなあと思いました。
また、背景美術も丁寧に描き込まれており、臨場感のあふれる舞台設定となっています。

【アクション】
本作の最大の魅力はアクションにあると言っても過言ではないでしょう。
カーアクション、五右ェ門の剣技、洞窟からの脱出シーン…。
アクションに見せ場を用意するシンプルな脚本になっており、この試みは成功しています。
作品を視聴した後は、スカッと爽快な気分になれる構成になっています。

【世界観】
「和製カリオストロ」とも称される世界観。
キャラデザは1stですが「TVシリーズの緑ジャケルパン」のハードボイルドな世界観ではなく、「カリオストロのルパン」に近い、穏やかな世界観です。
岐阜・飛騨を舞台に、いわゆる「日本の原風景」である山岳地帯や地方商店街の町並みなど背景が緻密に描き込まれており、作品世界の完成度を高くしています。
五右ェ門メイン作品ということもあり、墨縄家やお宝のある洞窟内の建物など、徹底した日本的描写がなされています。
ルパン一世ゆかりのヨーロッパや次元なじみのアメリカが舞台になることが多い『ルパン』作品では、珍しい作品であると言えるでしょう。
また、墨縄家の屋根裏にあるルパンアジトの散らかり具合や生活感のある演出(※1)も、「カリオストロ」での古城跡アジトでの様子を思い出させます。
この「生活感のあるアジト」は人気のあるモチーフなのか、後年「炎の記憶」「GREEN vs RED」でも登場します。(※2)

【OP&ED】
「ルパン世界は大野音楽の存在が不可欠」と考えている管理人にとっては、あまり魅力的なOPではありませんでした。

【ゲスト】
紫…ゲストヒロイン。五右ェ門の婚約者という派手な立ち居地にも関わらず、良い意味でも悪い意味でも、あまり目立たないヒロインでした。
おそらく「和製クラリス・対五右ェ門バージョン」を目指したのかもしれませんが、どうしてもクラリスほどの存在感はなく…。
しかし、下手に出張るよりはこれくらいの出番の方がよかったのかもしれません。
何度も長編作品の感想で述べていますが、『ルパン』作品では、ゲストキャラの物語ではなく、「メイン5人の活躍」が観たいのですから。

墨縄老…典型的な「頑固で人のよい、筋の通った老人キャラ」。だからこそ、安心感を与えてくれる貴重なキャラクターです。
「泥棒が大嫌い」だそうですが、孫娘の婿殿(=五右ェ門)は十三代も続く泥棒の家柄で、本人も泥棒なんですが…。

ボス…あまり存在感のないボス。偽刑事として潜入していた風見の方が目立っていました。
風見が荒事はあまり得意ではなさそうだったので、対五右ェ門バトルの見せ場要員だったのでしょうか。

風見刑事…ルパンが死んだと思い込み、出家し引退していた銭形警部を引っ張り出した張本人。
名優・千葉繁氏の好演で、いかにも腹に一物ありそうで、でも小物そうで・・・と独特の存在感がある悪役でした。

【ルパン】古川登志夫
管理人としては、古川ルパンにとても魅力を感じています。
五右ェ門メイン作品のように言われる本作ですが、ルパンもしっかりと活躍します。
最も意外に感じたエピソードは、カーチェースでルパンが車を運転しせずに、次元が運転している点でした。
ルパンのドライビングテクニックの腕前がプロ以上であることは、セカンド「モナコGPに賭けろ」などでも描写されています。
運転は次元に任せて、銭形警部をからかったり追い払ったりするルパンは、新しいルパン像とも言えるのかもしれません。
本作のルパンは緑ジャケと赤ジャケを両方所有しています。着用している緑ジャケ、紫に貸した赤ジャケ。
これは、「何色のジャケットを着てもルパンはルパンだ」ということを意味しているのかもしれません。
今回はたまたま緑ジャケだったけど、気が向けば赤ジャケを着るだろうし、冒頭の結婚式では燕尾服でした。
場合によってはピンクや白のジャケットも着るかもしれません。
ジャケットの色はあくまで、その時々で着替えるレベルのものでしかなく、ルパンのアイデンティティに関わる問題ではない、という制作陣のメッセージにも読み取れないで
しょうか。
ジャケットの色ともリンクして、「声が変わってもルパンはルパンだ」…というメッセージとして読み取るのは穿ち過ぎでしょうか。

【次元】銀河万丈
本作ではあまり目立った出番はありません。しかし、ルパンのよき相棒としての存在感は健在でした。
むしろ、銀河氏への変更によって、「ルパン一味の重石役」としてのキャラがより立っていたように思います。
小林次元より、銀河次元は落ち着きすぎています(=老けていると言っても良いでしょう)。
しかし、古川ルパンが、山田ルパンよりも若くなっているので、相棒としてはバランスが取れているようにも感じます。
この「老けた次元」は、宮崎駿氏の「次元大介の解釈」に沿っているのかもしれません。
モモヒキの愛用など、キャラデザレベルにおいても宮崎駿氏の描く次元は、北原健雄氏や青木悠三氏が描く次元に比べて「おっさんくさい」ですから…。
北原氏、青木氏の描く次元が「ダンディ」で「男の美学」を感じさせるキャラであることとは対照的です。
そして、本作の次元は、マグナムを撃ちません!
終盤の洞窟内では落盤を恐れて撃たなかったのでしょうが、ルパン作品で次元の早撃ちが全く観られないのは寂しすぎます。
冒頭の結婚式会場では、次元だけではなく、ルパンもゴエも丸腰でしたが…。
次元とゴエにとって、それぞれマグナムと斬鉄剣はアイデンティティともなっているので、冒頭のシーンでも驚きでした。
これもまた、新しい次元像を創り上げる試みなのでしょうか。

【五右ェ門】塩沢兼人
塩沢ゴエは若々しく、二枚目な印象を受けます。
井上ゴエの持つエキセントリックさや、ルパンや次元に対しての背伸び感(=ちょっと大人ぶったところ)は、失われてしまっているように感じます。
1stの大塚ゴエ、「風魔」の塩沢ゴエと比較して、井上ゴエが一番「ルパンと次元を慕っている」印象を受けます。
管理人個人としては、この「ルパンと次元を慕っている」ところが、ゴエの魅力の一つだと思っているので、少し寂しく感じられました。
メイン作品ということもあって、本作では大活躍します。
冒頭&終盤のアクション・シーンは、作品的にも最大の見せ場。
また、ゲストヒロイン・紫との微笑ましい交流など、五右ェ門の人間的な側面も描かれています。
墨縄家のお宝を盗もうとするルパンと次元に対し、諦めるよう頭を下げて頼むシーンは、ゴエの侍魂をみせる名シーン。
もう少し、ルパンや次元のことを考えていてほしかったですが、長編作品のメイン役は「ゲストヒロイン>仲間」になってしまうので仕方がないのかもしれません。

【不二子】小山茉美
小山不二子はハスキーな低音で、落ち着いたイメージです。増山不二子の女らしく、艶やかなイメージとは対照的です。
ルパンを追いかける銭形警部を追い払う手助けをするなど、「コンバット・ウーマン」としてのキャラが立っています。
これも宮崎駿氏の「峰不二子の解釈」に沿っているのかもしれません。
そのためもあってか、ルパンと不二子の関係も、山田・増山コンビよりも男女関係をイメージさせなくなっています。
これもまた、本作が「カリオストロ」をオマージュしていることとも関連しているのかもしれません。
一枚だけ金の瓦を盗んでいたというちゃっかり具合も披露しますが、この最後のルパンとのやりとりも「カリオストロ」を彷彿とさせます。

【銭形】加藤精三
管理人個人としては、声優陣交代で一番残念だったのがとっつぁんでした。
「銭形警部のルパンへの複雑な感情」を表現できるのは納谷氏だけなのでしょうか…。
加藤銭形も悪くは無いのですが、納谷銭形に比べて特徴があまりないように感じました。
墨縄老人を背負って、ルパン達のために崩落直前の洞窟に入っていく銭形警部のタフネスぶりが大好きです。
銭形警部をフォローする岐阜県警の警官隊は、もちろんカリオストロの埼玉県警のオマージュでしょうね。

【ル次五の仲間度】
ゴエが「紫殿・命」だったということもあり、仲間関係はあまり描かれていませんでした。「ゲストヒロインもの」の宿命でしょうね。
後のテレスペで量産される「女に騙されるゴエ」でないからまだマシですが、やはりル次五には仲間を一番に考えていて欲しいです。
紫を取り戻すために金庫から壺を盗んでゴエに渡し、「俺がまた取り返してやるからよ」と言ったり、幻術ガスで紫を斬ってしまったゴエをフォローするなど、ゴエに対して
兄貴的に振舞うルパンがみられたことが救いです。

【総合】
これはこれで評価したい一作です。未見の方は、ぜひ一度視聴していただきたいです。
そして、本作を通じて「ルパン声優陣の交代」について考えていただければと思います。
作品としては、「カリオストロ」へのオマージュ色が強いところが残念に思いました。
とは言え、良質なアクションと、緻密な背景、臨場感のあるロケーションと、爽快な気分で楽しめる作品に仕上がっています。

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※1*ルパン一味のライフスタイルに生活感(カップラーメンや100円ライターなど)を持ち込んだのも、宮崎駿氏の「カリオストロ」であることはよく知られています。
TVシリーズでは、ルパン達は当時としては珍しい瀟洒な西洋建築の屋敷をアジトにしている様子が描かれています。
また、ルパン達が身につけている小道具類も、海外ブランドの一流品が多いという設定になっています。
(ルパンのライターがジッポ、次元の時計がロレックス、銭形のコートがバーバリーなど)
1985年9月22日のプラザ合意までのドル高円安を考慮すると、2008年の感覚以上に高価な品物を身につけていたと言えるでしょう。
宮崎駿氏は、そのようなルパン達の生活様式に異議を呈し、実用的な小道具を愛用するようになったルパンを描きました。
この変遷は、消費の意味が、機能的消費から記号的消費に移行しつつあった時代の流れに対する、宮崎駿氏のアンチテーゼも含まれていたのかもしれません。
記号的消費に関しては、以下のテキストが参考になります。
「消費社会の神話と構造」ジャン・ボードリヤール/1970年/邦訳:今村仁司・塚原史訳,紀伊國屋書店,1979年
※2偶然かもしれませんが、「風魔一族」「炎の記憶」「GREEN vs RED」は全て日本を舞台にした作品です。
「生活感のあるアジト」と「日本が舞台」との関連性は、考察する意義があるのかもしれません。
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